08.APS・マスター設備
マスター装置
このコーナーでは、APS・マスター設備について説明します。APS・マスター装置は放送の送り出しの中枢です。
【マスター装置の概要】
マスター装置は、APS装置(自動番組送出装置)と組み合わせ、各送出方向別に単体機器等のプログラムの切換・送出を行います。
アナログ素材は中継装置のADC(アナログデジタルコンバーター)にてデジタル信号AES/EBUに変換されます。
デジタル素材はSRC(サンプルレートコンバーター)で受け、全て48kHzの同期信号により周波数ずれを防ぎ、音質に悪影響を及ぼさないようにしています。
【マスター装置の特徴】
(1)フルデジタル仕様
量子化ビット数24ビット、サンプリング周波数48kHz、リファレンスレベル-20dBFSのAES/EBUフォーマットで統一しています。
(2)完全独立6方向送出
送出方向はSTL系(ローカル放送)、NET系(JFNへのネット送り)に加えて、DIG1からDIG4の計6方向です。これらすべてのサービス毎にAプロとB1~B3の3種のBプロがあります。
(3)完全二重化構成による高信頼性と保守性
APS(送出制御部分)及び各電源部等完全二重化構成とし、信頼性と安全性を高めています。
送出方向別に完全独立しているため、ある送出方向に障害が発生してもその他の送出方向には影響しません。
(4)EDPSを最上位としたワンソースマルチユースシステム
EDPSを最上位とし、マスターシステムに対して放送運行データの当日差し替えが可能となっています。また、EDPSから放送運行データ内のエラーチェックを可能とし、データの不整合、不備を防止することができます。
(5)緊急時操作
もしも放送で無音が一定時間続いた場合には自動で素材が流れるシステムになっています。また、災害発生などの緊急時には放送運行を手動で操作可能とし、緊急ニュースの割り込みにも対応しています。
(写真) マスター装置
マスター装置の主な部分について説明します。
(1) 中継装置
(図)中継装置システム概要
中継装置自体は入力された音声信号を調整する入力音声処理棚からMTX部へ入力し、設定した出力を行います。操作端末として「中継制御端末」と「スタジオ用中継制御PC」が設置されています。
中継制御端末では、MTXのクロスポイントの切替操作、入力処理棚での音質調整を行うことが出来ます。また、スタジオに設置したスタジオ用中継制御PCは、自スタジオに関係のあるクロスポイントのみ操作できるようにした簡易制御PCです。スタジオ用のPCでは操作可能範囲を絞ることで誤操作によるトラブルを避ける工夫です。
この中継制御端末には「日時指定制御機能」が実装されています。これは日時指定で自動的にクロスポイントを切り替える機能で(=簡易的なAPSと考えると解りやすい)、例えば、中継等の場合に、中継現場側や受けスタジオ側にどのような音をどのタイミングで返すのかを時刻指定で切り替えるようにしたものです。1出力に対し4素材のMIXが可能です。
(2) APS・主調装置
(図)マスター設備システム概要図
マスターシステムは、上位システムであるEDPSと放送運行データ/放送結果データの送受信を行うことで放送を行う事を基本としています。一般にAPS(自動運行装置)と呼ばれる部分は、データ送受信を行うDS(データサーバ)部と運行制御を行うEMC(イベントメッセージコントローラ)部に仮想的に分かれています。このAPS部分と音声の切替制御を行うMasterRouterがワンセットとなっており、A系/B系として2系統化することで冗長性を持たせています。
システムチェンジや無音検知は後段のOutSW’erが行っており、機器故障時の系統切替や無音割込みを行います。また、緊急地震速報の割込もOutSW’erの役目です。OutSW’erではMasterRouter部やAPS部の故障時、緊急ニュース速報時に手動でのスタジオやアナブースの緊急割込み操作が出来ます。
さらにOutSW’er故障時の対策として最終段に「本線/SA(Aスタ)割込」を持たせることで、生放送スタジオ(Aスタ)から直接の送出を行う事で放送継続を可能とする機能を持たせています。
APS部、MasterRouter部、OutSW’er部、本線/SA割込とも音声サービスは6サービスとしており、6サービスの内訳はローカル放送、発ネットの通常使用している2サービスに加え、他に4サービスの放送を可能としています。
運行監視用の“OAモニタ”をサービス毎に準備し、マスター/ラック室/スタジオに表示しています。マスターとラック室に関しては現用系に加えて予備系側の運行状況も監視可能としています。
その他の機能として、放送運行データの編集を行うDS/EMC編集端末、手動操作でMasterRouterやOutSW’erを直接制御する緊急操作端末、システム内のアラーム情報を収集監視・状況によっては系統切替制御も行うアラーム監視装置があります。
マスターには監視卓を置き、手動操作のほとんどが監視卓でスイッチ操作できるようになっています。
(図)マスター監視卓
システム全体の時刻は時計装置からの時刻信号を受けて、システム内に設置したタイムサーバで同期しています。タイムサーバも2重化しています。また、デジタル音声用の同期信号発生器も2重化し、システム内及びスタジオ等の局内各所の機器に分配しています。
ラジコ対応として、「時報抜き」「時報地震抜き」音声をマスター内で作ると共にそれら音声を中継装置に入力し、中継装置からラジコに音声を送るようにしています。またラジコ用の制御として、オーディオアド用のIP-CUEへの対応も行いました(但し、オーディオアドの現運用はWM方式。IP-CUEでの運用は未定)。
MasterRouterの入力素材数は最大72素材(ステレオ)とし、APSでの特殊制御は、1放送サービス当たり115項目としています(一部サービス共用の接点あり)。
(3)警報装置
警報装置は放送関連機器や設備に異常が起きた時に接点によるアラームを受け、ブザーの鳴動とアラームの内容を表示することで異常を知らせるシステムです。
入力接点数は最大256接点で正論理、負論理・エッジ/ステータス双方に対応し、1つのアラームに対して、軽故障/重故障/ブザー音鳴動先/メール通知の有無/遅延時間(時間内に正常動作に復帰した場合には通知しないという設定)等を設定できます。
これらのアラームは40グループまでグルーピング可能で、グループごとに監視のマスキングが可能です。
また、接点入力、監視装置からの信号出力は全てMDF経由とし、監視対象機器の増減・更新にも柔軟に対応することができます。
加えて、最大5アドレスまでメールによる外部通報が可能であり、監視者不在時にはメールで監視者や技術部員に通知することが可能となっています。
01. 建物・ロビー
02. スタジオエリア
03. スタジオの音響
04. 放送システムの基本設計
05. ABMシステム
06. DAW
07. DAWを使った制作
08. APS・マスター設備
09. DAFシステム
10. スタジオの機器
11. その他システム
12. 送信所・中継局
13. 電源設備
14. 空調・消火設備
15. 終わりに